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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)105号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は末尾に添えた書面に記載した通りであつて、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

上告理由第一点について。

論旨は、上告人は本件家屋の全部明渡を求めたのであつて、その一部明渡を求めたのではなく、もし右請求の全部が認容されないのなら、むしろ、その全部が棄却されることを希望したのに、原判決が一部明渡を認容する判決をしたのは、上告人の「申立テサル事項ニ付判決ヲ為シ」た違法があるというにある。

しかしながら、訴を提起する原告としては、請求の全部が認容されないで、その一部が認容される場合には認容される部分について一部勝訴の判決を求める意思があるのが通常である。それ故、原告の請求が可分である場合に、裁判所がその一部は理由があり他の一部は理由がないと認めたときは、その理由ある部分につき請求を認容し、その理由なき部分につき請求を棄却するのである。ただ、原告がその理由ある部分のみならば請求認容の判決を求めないことが明らかな場合は請求全部を棄却する外ないのである。本件において、上告人は本件家屋のうち原判決が明渡を命じた南側一戸の部分だけでも明渡を求める意思であつたことは、弁論の全趣旨殊に昭和二二年一一月一一日及び同二三年二月一八日の各口頭弁論期日において陳述された準備書面に照せば明らかである。されば、原審はこの点について特に上告人に対し釈明を求める必要はなかつたわけであつて、もし上告人において本件家屋の一部明渡だけでは請求認容の判決を求めない意思であつたならば、上告人みずから進んで前記準備書面の趣旨を訂正すべきであつたのである。それ故、原審には所論のような違法はなく論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よつて、本件上告を理由のないものと認め民訴法第四〇一条に従い棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条第八九条を適用し主文の通り判決する。

以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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